季節のお料理 辻むら
「銀座小十」で修業したオーナーが2006年にオープンした和食店。
旧家(今回取り壊し)への思い入れが大きく、「使用できるものは全て使用してほしい」との要望から、構造材、建具、備品など、趣のあるエレメントをできる限り再利用しました。
オーナーの料理の質の高さから、静岡ではなかなか予約の取れない店として定着しました。
写真は、小上がり席です。
普段は3っの個室ですが、襖を外すと広間になり、さらにテーブルをつなげると、6mにも達する大木の1枚板が現れます。
足元の窓からは、座らないと見えない庭が見えます。
「旧家を残存させるか取り壊すか」で、悩んでいらっしゃいました。
築60年の日本建築だったので、そのほとんどを生かせるのではないか。また、旧家は、そのままでは住むのには不都合が多すぎはしないか との提案をさせていただき、旧家を知る人にもそうでない方にも懐かしさを感じていただける作品となりました。
和の伝統を大切にする大将の料理をさらに引き立てる空間ができました。
やはり、「銀座小十」だったようです。
独立の際は杉山デザイン室と、決めてくださっていたそうです。
「銀座小十」の奥田透さんも、勧めてくださいました。
とても謙虚なクライアントで、私への要望をためらってしまう傾向がありました。
私の空間デザインは、クライアントのお料理にはとてもかなわないということを何度申し上げたかわかりません。
ここにあるものを使い、今までにないものを造る。私のこの想いに共感していただき、結局ほとんどを任せていただきました。
旧家の備品では足りないものは、私が全国から探しました。
結果、旧家のイメージを反映しつつ、さらに質の高い空間を創ることができました。
「懐かしさと新しさの両方を感じる」と言っていただきました。
一流の料理人にもかかわらず、「この空間に恥じない仕事をしてゆきます。」と言っていただきました。
「要望がすべて反映されている。」と言っていただいた時は、本当に設計者冥利に尽きる想いでした。
私は設計者であり、芸術家ではないので、この言葉が一番うれしいです。
予約が取れない期間は、年々長くなっています。
入口外観
いきなり建具という閉塞感を打開したく、暖簾の向こうへの期待感(ミステリアス)を模索しました。
入口脇のつくばいと坪庭。
つくばいは鞍馬石。
つくばいよりも運賃の方が高かった!
のれんをくぐって左へ折れると、これが玄関。玄関の扉のも旧家室内の建具を使用。
しかし、玄関に室内建具というのも若干の違和感があるので、あえて見せつけるように雨戸を設置。このことにより、室内建具への違和感が解消されている。
廊下奥から玄関方面を見る。
右側が小上がり席で、障子は旧家のもの。
式台も旧家の梁を再利用している。
カウンター
大将とゆっくり話ができる場所。
大将がとても謙虚であること、ロケーションが静岡であることから、桧一枚板は選択しませんでした。
あえて素朴感の伝わる栃の変木を選択しています。
小上がりのテーブルと同素材です。